2025年3月22日土曜日

Exit Music: Songs with Radioheads

Me’Shell NdegéOcello & Chris “Daddy” Dave
“National Anthem”

2006年。英国のバンドであるレディオヘッド Radioheads のカバー集。
ミシェル・ンデゲオチェロ Me’Shell NdegéOcello はクリス・デイヴ Chris Dave と組んで参加。元曲を、そのままといって良いくらいにカバー、あのベース・ラインもそのまま。

どうしたと訊きたいくらいの素直さですが、元も元ですから、やりすぎや、変態的にならないようなアプローチということでしょうか。
元曲の後半にあるあの盛り上がりをミシェルはどのように展開するか、というのも聴きどころでしょうか。

チャールズ・ミンガス Charles Mingus にインスパイアされた、という盛り上がりパートですが。
レディオヘッドのボーカルであるトム・ヨーク Thom Yorke が、ミンガスのライブ・アルバム “Town Hall Concert”(1964年)を挙げて、“organised chaos” と評しています(ウィキペディアから)。このベース・ラインの方は、16才の時に思いついたとカッコ良くも発言し、ついでにベースも弾いているのがトム・ヨークであります。

こちらのクレジットでは、プロデュースにアレンジはミシェルとクリス・デイヴ、二人に演奏者(Performer)とあって、歌とベースがミシェル、ドラムはクリスとなっていますが、加えてホーンでケビー・ウィリアムズ Kebbi Williams も。アトランタ出身で、テデスキ・トラックス・バンド Tedeschi Trucks Band に参加したり、クリスとも幾度かプレイしているサックス吹きです。ミックスはボブ・パワー Bob Power が。

元曲のホーン・セクションを混じえての盛り上がりのキイワードとなるのが、“free jazz” だそう(これもウィキペディアから)。そこは、ミシェルを始めツワモノな顔ぶれによる余裕のカバーであります。もう少し時間を伸ばして、元曲にない、さらなる盛り上がりの第二波なんて加えて暴れてみたら(しつこいだけか)。
レディオヘッドの曲に関しては、他にもミシェルによるカバーを聴いてみたいような曲が、多々あるような気も。




2025年2月23日日曜日

Interpretations: Celebrating The Music Of Earth, Wind & Fire

Me’Shell NdegéOcello
“fantasy”

2007年。アース・ウィンド・アンド・ファイアー Earth, Wind & Fire のカバー集。
モーリス・ホワイト Maurice White の名前まで(エグゼクティブ・プロデューサーと)クレジットされています(が実際になにを務めたのかは不明)。これが2006年に再始動した新生スタックス・レコード Stax Records から発売された初の新録アルバムとのこと。

どれも有名、聴いたことがあるような曲ばかりで。真面目に、良いメロディを良い歌で伝えようとカバーしたものが多く。直球ど真ん中狙い、というのがこのアルバムの Interpretations(解釈とか理解)ということになりましょうか。
ミシェル・ンデゲオチェロ Me’Shell NdegéOcello だけは、遊びというかひねりを効かせた、アルバムのラストに配置するしかないような変化球に仕上げてきました。
ミシェルのこのカバー、プロデュースの名義が、A Different Girl (Every Night) となっております。

同じ年に、ミシェルのオリジナル・アルバム “The World Has Made Me the Man of My Dreams”(2007年)、邦題「夢の男」が発売されており。
日本版に収録されたボーナス曲のタイトルが、毎晩違う女の子、A Different Girl (Every Night) であります。
歌詞としては、あんたは毎晩違う女の子がお望み、こっちは毎晩違う女の子になりたいの、みたいな。ミシェルがなにやらリスナーに向けてぼやいたような内容ともとれる歌詞であり、で、You’re a fucking cunt と言っていたりも。 
その通りに、確かに聴き手であるこちらは毎晩のようにCDを取っ替え引っ替えしてはあれこれとリスニングしたいですから。そしてこのアルバム「夢の男」で目立つのが、ロックな曲、激しめのアレンジであったりします。私は違う女の子になりたいの、という通りに、これまでのミシェルのアルバムとはまた違う音を鳴らしています。

アースのカバーにしても一筋縄ではいかない、とんがったものに。
ベース、ドラム、ギター、パーカッション、ボーカルは、アルバム「夢の男」の方にも共通して参加している面々で。特にドラムのディアントニ・パークス Deantoni Parks は、アルバムの数曲で叩いていて重要な役割を担っています。

他の曲の、良い歌をまっすぐに聴かせようという、当たり前な判りやすさと比べれば、ミシェルはやはりカーブ球でありましょうか。これをキレ味鋭いと取るか、危険球すれすれと取るかは聴き手次第。
そんなオルタナティヴな役割の曲をもう少し数曲ほど入れていたら。そうすると理解されない、売れない?
ミシェルの場合はけして引き立て役では終わらないのは確か。



2025年2月8日土曜日

Soul Men: Original Motion Picture Soundtrack

Me’Shell NdegéOcello
“Water”

2008年。映画「ソウルメン」のサントラ盤。監督はスパイク・リーの従兄弟のマルコム・D・リー Malcolm D. Lee ですが日本未公開、日本語版のDVDあり、という作品。

サントラは2006年に再始動したスタックス・レコード Stax Records からの発売。
ミシェル・ンデゲオチェロ Me’Shell NdegéOcello による往年のスタックス・ナンバーのカバーを一曲収録。
ミシェルがカバーしたのは、エディ・フロイド Eddie Floyd の1968年の曲。作者はスティーヴ・クロッパー Steve Cropper とエディ本人。エディといえば、“Knock on Wood”(1967年)でも知られる往年のスタックスの看板シンガーのひとり。

なにしろこの大元が相当にカッコ良いですから。ミシェル版にしても、オリジナルにならったようなアレンジで、往年のソウルな感じをそのまま持ってきて歌っております。
映画は未見ですから、どのように使われているものか、当時風のアレンジなのにも理由があるのか、不明ですが。オリジナルと聴き比べてしまうと、少々、落ち着きすぎのようにも。プロデュースはミシェル。

同じこの監督の映画では、先に「ベストマン」The Best Man (1999年)のサントラ盤にも、ミシェルのアルバム未収録曲が収められており。また、映画「アンダーカバー・ブラザー」Undercover Brother (2002年)のサントラ盤には、ブーツィーが参加というありがたい監督であります。

映画「ソウルメン」には、アイザック・ヘイズ Isaac Hayes が(本人として)出演。サントラにも彼の歌う一曲が収録されていますけれど。
ヘイズといえばやはり「黒いジャガー」、あのテーマ曲であります。
ニューヨークの街角をジョン・シャフトが歩くオープニングのシーンは忘れられませんとも。ヘイズが担当したサントラ盤 “Shaft”(1971年)は、往年のスタックス・レコードを代表するような一枚でありますが、新生スタックスからも、ヘイズの新作を出す予定があったそうです。2008年にヘイズは逝去。



2025年1月18日土曜日

Talk To Me (Music From Motion Picture)

Me’Shell NdegéOcello feat. Terence Blanchard
“Compared To What”

2007年。映画「Talk To Me」のサントラ盤。といっても、収録されているのは往年のソウル・ミュージックばかり、というヒット・パレードなコンピ盤。アトランティック・レコード Atlantic Records 発。
オーティスやサム&デイヴ等、60年代のヒット曲が11曲に、71年のドラマティックス The Dramatics の一曲も、という並び。そこに、新録としては一曲のみ、ミシェル・ンデゲオチェロ Me’Shell NdegéOcello のアルバム未収録曲が最後に収められている、という(なかなかに)大胆な構成。

映画はワシントン D.C. の人気ラジオ・テレビ・パーソナリティ、ラルフ・ピーティー・グリーン Ralph “Petey” Greene を描いたものだそう。この方、クスリ中毒やら強盗犯で受刑したやら、色々と経験を重ねたタレント兼地域活動家とのことで(ウィキペディアより)、60年代後半から80年代前半の期間を舞台に描いた物語だそう。

オマケのようにこの曲だけが新録、というミシェルの一曲がどこに流れるのかは未見ですが、これもカバーで、1969年にロバータ・フラック Roberta Flack が歌ったもの。作者はユージン・マクダニエルズ Eugene McDaniels という方。
同じこの方の作では、そのロバータを始め、マリーナ・ショウ Marlena Shaw や、それにディアンジェロ D’angelo もカバーした “Feel Like Makin’ Love” も有名でしょうか。

ミシェル版のカバーは、がらりと現在のアレンジ、質感ながら、元のロバータ版にならったのかジャズなウッドベースがボンボボンと走って。途中、いきなりファンクが差しこまれる、急展開も聴きどころ。このヘビーなパートのベースはミシェルでしょうか。

クレジットがそっけないもので、演奏(Performed)はミシェル、トランペットでテレンス・ブランチャード Terence Blanchard をフィーチャリング、そしてプロデュースはミシェル、とそれだけ。歌以外のドラムや鍵盤、ベースのすべてもプレイしているのでしょうか。かねてからウーリッツァーやプログラム担当みたいなクレジットはありましたけど。

ともかく、歌や演奏のアレンジは完全にミシェルらしさに溢れて。そこは映画「永遠のモータウン」“Standing In The Shadows Of Motown” でモータウンに歌い手として招かれた立場とは異なる点。元歌を尊重しつつ自分のスタイルで好きに調理しております。



2024年12月15日日曜日

Joan Osborne “How Sweet It Is”

Smiling Faces Sometime

2002年。映画「永遠のモータウン」“Standing In The Shadows Of Motown” のサントラ盤と同じ年に出された、ジョーン・オズボーンのアルバム。
映画にも収録された彼女とファンク・ブラザーズの共演をきっかけに、制作された(ウィキペディアより)というこちらは、モータウンの曲を含みつつ、さらに間口を広げて60年代から70年代にかけての名曲カバー集。

“I’ll Be Around” The Spinners - 1972
“Think” Aretha Franklin - 1968
“How Sweet It Is (To Be Loved by You)” Marvin Gaye - 1965
“Smiling Faces Sometimes” The Temptations - 1971
“Love’s in Need of Love Today” Stevie Wonder - 1976
“These Arms of Mine” Otis Redding - 1962
“Only You Know and I Know” Dave Mason - 1970
“War” The Temptations - 1970
“Why Can’t We Live Together” Timmy Thomas - 1972
“Bold as Love” Jimi Hendrix Experience - 1967
“The Weight” The Band - 1968
“Everybody Is a Star” Sly and the Family Stone - 1969

あの時代、あの有名曲、な選曲でありますが、アルバムを通して聴けばごく自然に気持ち良く。ありがちな、名曲をレトロに再現しようとか、黒っぽくしようとか、あるいは自分が好きな歌への愛を形にしようとか、そういった(ちょっと外しがちな)力みがなく。
今日現在の、普段使いの曲、そんな感覚でしょうか。ジョーン・オズボーンという方、さらりと素直に歌いつつも。シンプルながら、なにかロックなところの音は伝わってきたりして。

ミシェル・ンデゲオチェロ Me’Shell NdegéOcello がベースで参加したのは、モータウンの大有名曲。オリジナルのテンプテーションズ The Temptations やアンディスピューテッド・トゥルース The Undisputed Truth のバージョンと違って、ここではノリ良くコンパクトに。
ズビズビとベースが走る上で、ジョーン・オズボーンとデュエットで歌っているのはアイザック・ヘイズ Isaac Hayes であります。そのためか、アルバムの中では黒っぽい(少し古めの)仕上がりに。

ジョーン・オズボーンにはこの後も、カバー集といったアルバムがちらほらとあって。

Breakfast In Bed


2007年のアルバム。こちらも有名どころの多数の名曲カバーが売り。少々ブルースぽく、ダウンなところがまた良い感じ。
オマケとして、映画「永遠のモータウン」のサントラ盤から、マーサ&ザ・ヴァンデラス Martha and the Vandellas の “(Love Is Like A) Heat Wave” とジミー・ラフィン Jimmy Ruffin の “What Becomes Of The Brokenhearted” のカバー二曲を再度こちらにも収録。
他にも、ブルース集やディランのカバー集などもあったりして。

彼女自身のオリジナルのアルバムの合間の仕事ですが、安定した歌手ぶりといえますでしょうか。米国の土壌というのは肥沃であります。その米国でも、ベタつかない彼女の声や感覚というのは案外貴重だったりして。アマゾンなんか見ると、日本でも隠れファン(失礼)が多いよう。



2024年12月1日日曜日

Standing In The Shadows Of Motown

The Funk Brothers With Me’Shell NdegéOcello
“You’ve Really Got Hold On Me”
“Cloud Nine”

2002年。映画「永遠のモータウン」のサントラ盤。歌と演奏のシーンから、往年のヒット曲のカバーが収録されています。
ジャケット裏の曲目を見ると、まず筆頭として Starring The Funk Brothers on all tracks と大きく明記、その次に各曲名と曲毎に参加したゲストの名前が続くというデザイン。主役なのはファンク・ブラザーズ、だから演奏を聴いてくれよ、という主張がうかがえるような。

ミシェル・ンデゲオチェロ Me’Shell NdegéOcello は二曲に参加、もちろん(ベースは置いておいて)ボーカルとして。
ミラクルズ The Miracles とテンプテーションズ The Temptations の大名曲を、真っ直ぐに歌っております。どちらもモータウンという枠を越えて、60年代を代表するような大有名曲ですが。

ミシェルが主導する形であれば、もっと独創的なアレンジで歌っていたのかもしれませんが。
ここではゲストのひとりとして、ストレートな歌いぶりが聴けるのが良いところ。声量で勝負するようなタイプではないので、そこはコーラスの方々をうまく活用して歌っております。

ミシェルらしい予想外のアレンジがされたバージョン、というのも捨てがたいですが、それはまたいつか次の機会に。
ミシェルと同様に、ベース弾きではなくボーカルとしてブーツィーも参加。こちらはノベルティ系の二曲に、破壊力抜群の声で盛り上げていました。
ブーツィーの誰よりも派手な出で立ちは、映像でないと確かめられませんが。
映画を見ても良し、サントラの音だけを聴いても良しの優良コンテンツ。